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【アラベスク】  第7章 雲隠れ (後編)



第2節 百考千思 [7]




「富丘ぁ?」
 吐き出す聡にため息をつきながら
「一応さ、確認はしておいた方がいいんじゃない?」
「何を?」
「今日の駅舎の管理、誰がすることになってるのか。ここの鍵開けたの、本当は誰なのか?」
「それ確認するために、わざわざアイツんちまで行くのかよ?」
「行くよ」
 若葉薫る午後の日差し。背に流れる薄い色の髪の毛を風に遊ばせ、霞流慎二は笑っていた。

「私はただお困りのようだから、お手伝いをしているだけのことですよ」

 お手伝いなどと表現するには、明らかに度が過ぎていた。金持ちの金銭感覚という理由で片付けてしまうにも、納得いかない。
 これは嫉妬か?
 役に立たない自分からの、役に立ち過ぎる相手への嫉み?
 そうだとしても、納得できない。
 なにより、風雨関係なくこの駅舎へ通う美鶴の姿勢が、瑠駆真に激しい猜疑を与える。
 この駅舎。ここで対峙したのが最後だった。

「大方アンタも、私の下がった成績を楽しんでるんじゃない?」

 逢わなくては。なんとしてもこの状況を打破しなくては―――
「行くよ」
 簡潔に答え、すぐに鞄に手を伸ばす。
「そもそも、あの霞流慎二(しんじ)って人がどういう人なのかも知りたいし」
 だが今までは、それを確認する手段も口実もなかった。
「今が、いい機会だとは思わないか?」
 瑠駆真の言葉に、聡はぐっと言葉を呑む。
 夏の京都で何があったのか。問い詰めるチャンスなのかもしれない。
「だな」
 めずらしく意見の合った聡と瑠駆真は、すばやい身のこなしで駅舎を飛び出した。





 幸田(こうだ)(あかね)は辺りに視線を投げ、誰もいない事を確認してから、そっとドアに顔を寄せた。
 屋敷勤めに立ち聞きはご法度。見つかればお叱りを受けるのは当然。立ち聞きの内容によっては辞めさせられてしまうかもしれない。
 だが茜は、それでもそっと耳を寄せる。
 この霞流邸に、突然の訪問者。二人の男子高校生。そのどちらをも、茜には見覚えがある。
 以前、美鶴という少女が母親と一緒に居候をしていた時、一度来たことがある。
 二人がいるのなら、ひょっとしたら美鶴も同行しているのではないかと期待した。だがどうやら、今回やって来たのは二人だけらしい。
 落胆する己。内心肩を竦める。
 あの少女に逢えたからって、どうにかなるワケでもないじゃない。
 だが美鶴に逢えると、なんとなく繋がっているような気がして……
 繋がっている? 誰と誰が?







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