「富丘ぁ?」
吐き出す聡にため息をつきながら
「一応さ、確認はしておいた方がいいんじゃない?」
「何を?」
「今日の駅舎の管理、誰がすることになってるのか。ここの鍵開けたの、本当は誰なのか?」
「それ確認するために、わざわざアイツんちまで行くのかよ?」
「行くよ」
若葉薫る午後の日差し。背に流れる薄い色の髪の毛を風に遊ばせ、霞流慎二は笑っていた。
「私はただお困りのようだから、お手伝いをしているだけのことですよ」
お手伝いなどと表現するには、明らかに度が過ぎていた。金持ちの金銭感覚という理由で片付けてしまうにも、納得いかない。
これは嫉妬か?
役に立たない自分からの、役に立ち過ぎる相手への嫉み?
そうだとしても、納得できない。
なにより、風雨関係なくこの駅舎へ通う美鶴の姿勢が、瑠駆真に激しい猜疑を与える。
この駅舎。ここで対峙したのが最後だった。
「大方アンタも、私の下がった成績を楽しんでるんじゃない?」
逢わなくては。なんとしてもこの状況を打破しなくては―――
「行くよ」
簡潔に答え、すぐに鞄に手を伸ばす。
「そもそも、あの霞流慎二って人がどういう人なのかも知りたいし」
だが今までは、それを確認する手段も口実もなかった。
「今が、いい機会だとは思わないか?」
瑠駆真の言葉に、聡はぐっと言葉を呑む。
夏の京都で何があったのか。問い詰めるチャンスなのかもしれない。
「だな」
めずらしく意見の合った聡と瑠駆真は、すばやい身のこなしで駅舎を飛び出した。
幸田茜は辺りに視線を投げ、誰もいない事を確認してから、そっとドアに顔を寄せた。
屋敷勤めに立ち聞きはご法度。見つかればお叱りを受けるのは当然。立ち聞きの内容によっては辞めさせられてしまうかもしれない。
だが茜は、それでもそっと耳を寄せる。
この霞流邸に、突然の訪問者。二人の男子高校生。そのどちらをも、茜には見覚えがある。
以前、美鶴という少女が母親と一緒に居候をしていた時、一度来たことがある。
二人がいるのなら、ひょっとしたら美鶴も同行しているのではないかと期待した。だがどうやら、今回やって来たのは二人だけらしい。
落胆する己。内心肩を竦める。
あの少女に逢えたからって、どうにかなるワケでもないじゃない。
だが美鶴に逢えると、なんとなく繋がっているような気がして……
繋がっている? 誰と誰が?
|